任期切れの足音

今年度も3分の1が終わろうとしている。
僕にとって、今年は契約最終年。いわゆる「任期切れの年」だ。


今や若手にとって当たり前になった「任期〇年」のポジション(〇は通常1以上5未満)。アカデミアにいる同年代の友人達も、多くが任期付きだ。


30代も半ばを過ぎていまだにポスドクをやっている僕のような下位30%勢はともかく、優秀で業績もある友人でも、なかなか任期無のテニュア職に就けないでいる。


「研究者の流動性が重要」というのが任期付きでどんどん人を入れ替えることの表向きの理由だが、実際は単純に予算の問題だろう。終身雇用で人材を確保する人件費的余裕がある大学や部局なんてもはやほとんど存在しない。


本来は任期の定めなどないポジションで、中長期的な視野をもって腰を据えて研究に取り組んだ方が、真に良い仕事ができる可能性が高い。
3年や5年の任期があると、全く新しい野心的なテーマを始めるにはリスクが大きい。そうなると、ある程度先が読めて見通しが立っている研究に取り組みがちになる。先が見通せる研究なんて、「いい仕事」としてまとまる可能性は高いが「革新的な仕事」にはなかなかならない。


まして、(今の僕のポジションのように)任期切れの後、更新の可能性がないポストも多い。そうなると、任期中に次の職探しを始めなければいけない。今のところで頑張っていても更新に結び付くわけでもなければ、ボスが次の職を世話してくれるわけでもない。それなら、最後の1年は実験してデータ出すよりも、論文書いて就活する方が理にかなっている。

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最近では、学会などで同年代で集まると決まってそんな話ばかりだ。「あと任期何年?」「あの公募出した?」で始まる会話ばかり。新進気鋭の若手が集まっていながら研究の話があまり出てこないなんて、どう考えても健全な状況とは言えない。

少なくとも10年前、まだ僕らが博士課程の学生だった頃は、もっと盛んに研究の議論ばかりしていたように思う。
あの頃の僕らはまだ、常に心の隅に巣食う「任期切れ」という存在をどこか遠くのものに考えていたんだ。きっと。







任期終了まであと8ヶ月。