学部の間は友達作れ 

先日、ラボに学部生の訪問があった。
配属は2年も先のことなのに熱心だなぁと思った程度だったのだが、なんやかやで対応係を命じられてしまった。


訪問してきた彼に聞くところによると、彼はかなり強く研究者を志望しているそうだ。しかし、特に特定の分野やテーマに強い関心を持っているわけではなく、とにかく「研究者になりたい」のだそうだ。研究室訪問の動機も、あわよくば正式配属前から研究を始めることで少しでも研究業界のレースを有利に進めたいという理由らしい。「学振とるためには論文本数が大事なんですよね!」と弁舌を振るう学生に複雑な気持ちを持ってしまった。

ことなかれ主義のボスから正式配属前の研究開始の許可など下りるわけもなかったが、彼は一通りラボを見学して院生やPDの話を聞いて8割の満足と2割の不満を抱いて帰って行った。なお、来週は別のラボを同じように訪問するそうのだとか。

「そりゃ早く始めたら有利かもしれないけど、配属前の学生生活、もっとやるべきことあるよなぁ〜」というのは、僕と彼との会話を隣で聞いていた同僚PDの感想である。同意せざるを得ない。

  • - - - -

業界人なら誰もが知っているだろうが、昨今のアカデミアのポストを巡る競争は熾烈である。確かに、彼が言うとおり少しでも早く研究を始めれば、学振DC申請までに論文が出る可能性は高くなるし、学振DCが取れれば経済的に恵まれた博士課程を過ごせる。

学部の頃から研究室に出入りできれば(そしてラボの規則を遵守し真面目に研究を進めれば)確かに。そのようなメリットはあるだろう。
しかし、アドバンテージを得れるほどの成果を得ようと思ったら、ある程度ラボでの研究に時間を割かなければいけない。
「時間が空いたときに来ます」では、研究はそうそう進展しないし(ましてビギナーなら絶望的だろう)、他の研究室メンバーに迷惑も掛けやすくなる。
まだ講義やバイトを持っている学部生にとって、研究室で研究に費やす時間的コストは相対的に高い。つまり、他の活動に回す時間は大幅に削らざるを得ない。

ここで考えてみて欲しい。大学の学部時代というのは人生で唯一とも言ってもいい「自由」な時期である。古臭い言い回しをすれば、二度と訪れない青春である。何か1つのことに打ち込むことが出来る最後のチャンスである。体育会系クラブでもサークルでもいい、、放浪旅のような若いときならではの活動を行うもよし。また、一生涯の友人を作るまたとない期間でもある。その時間を窓もない部屋でPCRをかけたり大腸菌をつついたりする作業に使っていいのだろうか。

  • - - - -

身の回りを見渡していただければ思い当たると思うが、現在一線でバリバリやっているPIやPDの中に「正式配属前から研究室でバリバリやっていました」という人物はほとんどいない。逆に、学生時代は体育会クラブやサークルに打ち込んでたとか、休みになれば放浪旅に出ていたとか、ひたすら悪友とバカやってたとか、そういったエピソードを話せる人物はすぐに幾人も思い当たるだろう。

研究には山もあれば谷もある。絶好調に進展することもあればやれどもやれども停滞することもある。ベンチを離れても、指導教官との人間関係に悩み、不安定な将来に苛まれ、不安定になりがちな精神状態と向き合っていかねばならない。

個人的にバイアスした意見かもしれないが、いざ辛い状況に陥ったとき、豊かな経験を有している人間は強い。また、良き友人や恋人を持っている人間も強い。

もし、学部の自由な期間にこれらを手に入れることが出来たならば、それは1年や2年先行して研究室に入っていることなどより、(研究職就職レースに限定したとしてもなお)アドバンテージがあるのではないだろうか?