「STAP細胞の有無こそが重要だ」という皆さんへ

先日の某有名リケジョの会見はもしかしたら世論を変えるほどの一世一代の名会見だったのかもしれないと思うほど見事なものでした。

実にあっぱれでした。

あの涙を見て多くの視聴者がSTAP細胞の存在を信じ、彼女がトカゲのしっぽとして巨大な組織に切り捨てられようとしている・・・そんな風に感じたとしても無理はない。そう思えるほどに見事な会見でした。

ああ。あっぱれ、リケジョ優。


しかし我々は科学者です。
「世間の雰囲気」のような非論理的なものに惑わされず、事実とデータから物を言えと教え込まれてきた科学者です。

何故彼女が行ったことが問題なのかを今一度説明しなければいけません。
しがないポスドクの独り言ではありますが、この矜持は譲れません。

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STAP細胞の問題は「論文という科学界の正当な成果発表の手段において不正を行っている」という一点に尽きます。

多くの方が「STAP細胞の有無こそが重要だ」ということを仰っておられますが、これは誤りです。

少し例を出してみましょう。

STAP細胞の問題は、「『10億円を慈善事業に寄付した!』と大々的に発表したものの、その資金は、詐欺や窃盗といった犯罪により貯めたものだった。しかも10億円寄付されたという証拠がどこにもない」といったように喩えられます。

つまり

10億円の寄付:STAP細胞の作製
数々の犯罪:発表論文における不正

ということですね。

我々科学者が非難を繰り返しているのは、10億円が寄付されていないらしいということではなく、資金を貯めるのに犯罪に手を染めているからなのです。
10億円の寄付が実際にあったからと言って、その目的を達成する手段がどんなものでもいいというわけでは決してないのは多くの皆さんにも同意してもらえると思います。

今回のリケジョ優の会見は「詐欺や窃盗が悪いことだとは思いませんでした。口八丁でお年寄りから金銭を寸借したり、スーパーから商品を勝手に持って来て生活費を浮かせてました。お年寄りには後で返すつもりだったし、レジを通過しなかったのは急いでいたからです。後でお金はちゃんと払いました。ごめんなさい」「10億円寄付したのはほんとです!信じてください!」と言っているにすぎません。


10億円の寄付が本当だったとして、あなたは「では、詐欺と窃盗は不問にします」と言えますか?

「STAP細胞の有無こそが重要だ」と言うのは、「10億円寄付するならばその資金の調達方法はたいしたことではない」と言うのと変わりません。



それでもまだ「STAP細胞の有無こそが重要だ」と言いますか?

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僕たちが恐れているのは、これでリケジョ優が処分されなければいったい日本の科学界はどうなるのか?ということです。
競争が激しい科学業界、不正をしてでも業績(いい結果・いい論文)を出したいと思う人間は数多くいます。
これで彼女がお咎めなしになろうものなら「ズルをしても結果が大体合ってれば無問題」ということを内外に宣言するに等しいことです。

どうなるかは想像がつくかと思います。
競争が激しい研究業界です。不正は飛躍的に増えるでしょう。まして、「バレても上手いこと言えばお咎めなし」というお墨つきがあるなら、いわずもがなです。

数年後どうなるでしょう。不正を織り交ぜて論文を仕上げた狡猾な研究者が競争に生き残り、正直に真摯に科学に向き合った研究者が科学界から消えていくでしょう。

そんな日本の科学界は世界の科学界からもはや信頼などされないでしょう。

我々、科学者が恐れているのはそのような未来です。





もう一度聞きます。それでもまだ「STAP細胞の有無こそが重要だ」と言いますか?