「君のテーマは面白い」

新学期、今年も新しい学生さんが研究室に入ってくる季節。
毎年毎年、僕は新しく研究室に入った学生さんに言い続けていることがある。

「君のテーマは面白い」

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かつて在籍した研究室での話。

その研究室は、「テーマは学生に『与える』ものであって、未熟な学生が自分のやりたいことをやらせてもらえると思っているなんて笑止千万」という考え方だった。
頭がクソ固い前時代的な教授と、優秀で切れ者ではあるが学生を駒としか思っていない助教が運営する研究室だった。

研究室に配属された学生は目的も背景もわからないまま「○○因子の××時における局在解析」のような、論文のFigure 1枚を作るためだけの作業を与えられる。

4月からあれだこれだと実験を指示され、わけもわからないまま特定の技術を学び、「言われたことを的確にこなすだけ」のスキルを身に着けたなら、あれもこれもとそのサンプルがどんな研究のどんな文脈で使われるのかもわからぬまま、データを出すことを求められる。

データは出せても「次は、これね」とサンプルを渡される日々の繰り返し、データが滞れば叱責や罵倒が教授から飛ぶようなところだった。修士2年の春の就活時期になるとPI陣の機嫌は目に見えて悪くなり、ともすれば就活禁止がルール化されようとしたことすらある。

初めての「研究生活」に目を輝かせていた学生たちの精気は瞬く間に消え、多くの学生は学部卒業と同時に、長く持ったでも修士課程が終ればさっさと民間就職して出て行った。(もちろん多くの学生がそこに到達することなく精神を病んで消えていったのも言うまでもない)


僕は担当実験が少し特殊だったということもあり、なんとかうまいこと立ち回っていたが、はたから見ていて学生・院生が本当にかわいそうだった。
彼らのやっている実験は、実はとても面白いテーマの一部であり実に意義があることなのだが、本人たちは微塵も理解しておらず、またPIたちも「学生・院生はデータさえ出してくれればそんなこと知らなくてもいい」というスタンスだった。

「雇用されている」というポスドクの弱さもあり、僕は最後までPIたちに意見することができなかった。

「なぜ、学生を駒かマシンのように扱うのか?なぜ彼らに研究の面白さを知るチャンスを与えないのか?」
と、何度言ってやろうかと思ったかわからない。
だが、自分の身が可愛かった僕は、ついぞその一言を言えずに次の職場に移った。


同時期に修士を取り、同時にラボを去ることになった院生の言葉が僕は未だに忘れられない。

「○○さんが言ってくれた『お前のテーマは面白いんだよ!』という言葉が心の支えでしたわ。俺も、『研究の面白さ』って知りたかったな〜笑」





以来、僕は同じラボに属したすべての学生に必ず、そのテーマがいかに面白くていかに重要かを繰り返し伝えている。
最後まで、PI達の横暴な態度を見て見ぬふりをしてしまったことへの反省と後悔も込めて。